連載第3回は、研修で特に時間をかけて教えていただいた「言葉づかいとマナー」についてです。
いま、介護サービスを利用される中心の世代は、いわゆる団塊の世代に移ってきています。日本の経済成長を支え、お客様を大切にもてなす「ホスピタリティ」を当たり前として歩んでこられた方々です。その世代の方が、いざ介護を受ける立場になったとき、ぞんざいな言葉づかいをされると、深く傷つかれます。しかも、多くの方はそれを口に出して言ってはくださいません。「文句を言って、介護をしてもらえなくなったら困る」と我慢し、心のなかで寂しさを抱えたまま過ごされる――そんな方が少なくないと聞き、胸が痛みました。
菊地先生は、丁寧な言葉づかいこそが、利用者の尊厳を護る第一歩なのだと、やさしく、そしてはっきりと教えてくださいました。「タメ口は家庭的で親しみがある」と勘違いしている方もいます。けれど、本来タメ口とは「年下の者が年長者に対等に話すこと」を指す言葉で、親しみを表すものではありません。お客様である利用者に対し、ため口をつかう理由など一つもありません。私たちは、ご家族そのものにはなれません。私たちに求められているのは、家族のような存在ではなく、確かな知識と技術に支えられた、介護のプロとしての温かい接遇なのだ、と。
先生は、言葉づかいがなぜ大切なのかを、ある施設の例で語ってくださいました。もともと、その施設では利用者を「○○さん」とお呼びするルールがありました。ところがある日、一人の職員が、ある方を「ちゃん付け」で呼び始めた。それを誰も注意しないまま放っておいたところ、「ちゃん付け」で呼ぶ職員が少しずつ増え、呼ばれる利用者も増え、やがてニックネームで呼ぶようにまでなってしまった――。たった一つの小さなほころびが、知らず知らずのうちに広がっていく。これは「感覚の麻痺」であり、決して他人事ではないと、先生は戒められました。だからこそ、小さな乱れに早く気づき、そっと整えていくことが大切なのです。
心に残ったのは、「日本語は世界でもいちばん表現の豊かな言葉」というお話です。丁寧な言葉を使っても、親しみはちゃんと伝わる。むしろ、丁寧な言葉で親しみを届けられることこそ、介護に求められるいちばん大切なコミュニケーションの技術なのだ、と。「よそよそしいと思われたくない」と言い訳をして言葉遣いを砕けてしまうのではなく、温かく、ていねいな言葉遣いに。その両立を、私たちはめざしたいと思います。先生は最後に、こう語りかけてくださいました。「よそよそしさを恐れるより人よりも、無礼な言葉で利用者の尊厳や誇りを奪ってしまうことを、何よりも恐れる人でいてください」と。
私たちは、利用者を「お世話する相手」ではなく、人生の先輩であり、大切なお客様として向き合いたい。その気持ちを、まず言葉から大切にしていきます。次回は、人生の最終章に寄り添う「看取りの介護」についてお伝えします。

